夢は夢のまま

教科書もマニュアルもない人生という学校で、共に学び、支え合い、卒業を目指すためのブログ。

小説『ひとりぼっちのあいつ』の感想

『ひとりぼっちのあいつ』(伊岡瞬著、2015)という小説を読みました。
新聞の書評で紹介されていて気になったのと、何となくタイトルに惹かれたというのもあります。

最近本を読むスピードが落ちてるので、厚めの本は避けてましたが、400ページ以上にひさしぶりに挑んでみました。うげっ。


ざっくりあらすじを書くと、ある特殊能力が使える男性(大里春輝)の人生と、ダメダメ若手サラリーマンの(宮本楓太)の人生が、楓太が春輝の能力を目撃したことで何度も交差していくストーリーです。


全体としては、春輝が特殊能力を持っていることで身に降りかかる悲劇として延々と語られている印象があります。
ですが、前半は春輝のミニバスケのレギュラー争いの話や女友達の家に初めてお邪魔して緊張してうんぬん、というところが青春小説みたいで結構好きです。



春輝が最初に自覚している能力は、物体を空中で静止できるといった能力で、初めは家族のみしか知られていませんでした。

小学生の頃、その能力を「秘密だから」と約束して彼が親友(小田尚彦)に見せたところから悲劇が始まります。(⬅この友人が結構くせ者……)

親友だと思っていた尚彦の裏切りにより、その能力が世間に知れ渡り、彼を利用しようと近寄ってきたり、彼が得をした出来事は全て「能力」を使っているからと非難の目で見たり、噂話を信じて好奇の目で見る者が現れます。


それが学校を卒業しても、就職しても延々と続き、職場に居づらくなっては辞めを繰り返し、果てはホームレスになるわで、結構読んでいてしんどいものがありました。
この辺りは、就職氷河期の頃の話とからめて展開されてましたので結構気になる部分でした。


春輝はホームレスになり、極力人との関わりを避けておりましたが、寝泊まりしている公園である傷害事件に遭遇します。
被害者(鶴巻)は何物かに首を刺されて血塗れになっていました。

春輝は関わりたくない一方で、過去に助けられなかった女友達のことが頭をよぎり、自分の力を試す意味でも鶴巻の傷口に手を当てました。

結果春輝の特殊能力は鶴巻の傷口を治すのですが、傷を治したことで、本人の意志に関わらず、好奇の目を向けられたり、利用しようとする近寄ってくることに拍車がかかります。



この小説ではお金の話や家柄や身分といった話が結構絡んでくるけど、そういう権力めいたものも言うなれば「魔法」のようなものだと思います。
お金が人を狂わせ、お金があれば何でも出来るとの幻想を抱かせるのかもしれないですね。

小説ではそういう人間の「負の部分」を書こうとしたのでしょうか。


でも、特殊能力を持つ息子を心配し支えていた春輝の母親や、特殊能力を持つ春輝を特別視せず友達でいようとした女友達(真澄)を次々に死なせてしまうストーリーはホントに救いがなさすぎると思いました。

最後に春輝の力で救った(らしい)鶴巻を、またしてもナイフで刺されて死んでしまうラストにするのも悲しすぎました。
力の副作用で喉の癌にかかってしまうという筋はありかな、と思うけど、病気で死んでしまう前にこういう形で死んでしまったら、彼を助けた春輝が救われないなと思いました。



ラストの終わり方は、「別の人が書いたのか?」というくらい、今までの悲劇がひっくり返ってしまっていて、無理によい話にまとめず、悲劇なら悲劇のまま突っ走ればよかったのにと思いました。



でも私が惹かれたタイトルは、よかったと思います。

何もなく幸せそうに見える人でも、皆誰にも相談出来ない秘密を抱えていて、誰もが『ひとりぼっちのあいつ』なんだろうなと思ったり。

それが何かのきっかけで出会って、親しくなって、何かあると放っておけなくなるーーー。


賛否両論ありそうな小説だけど、今まで私が読んだことがない感じの小説で、登場人物のキャラクターも立っていて面白かったです。



それにしても……。
この小説は書評をきっかけに読んだけど、書評って結構難しいとつくづく感じました。(~_~;)